【実例と研究から見る衝動的判断の影響】
既に触れたように、近年の研究や報告は未熟なチームの衝動的判断が招く問題を裏付けています。
一つの実験的証拠は、味方誤射に関するシミュレーション研究です。
2014年の米国における研究では、被験者が室内戦闘シナリオで敵役と味方役の標的に遭遇する状況を再現し、敵にだけ発砲し味方には発砲を控えることを課題としました。
その結果、敵の割合が高い局面では被験者は発砲の抑制に失敗し、味方役に対しても撃ってしまう誤反応が増加しました。
これは戦場で敵だらけの状況に置かれた兵士が、稀に現れる味方を識別しても反射的射撃を止め損ねる可能性を示唆するもので、敵味方識別の困難さと射撃抑制力の欠如が招く悲劇をデータで示しています。
実際の戦闘でも、湾岸戦争やイラク戦争で生起した多数のフレンドリーファイア事件は、未熟な部隊の過剰反応や連携ミスに起因するものが少なくありませんでした。
また、警察の現場事例からも示唆が得られます。
2007年の米国警察雑誌の報告によれば、複数の警官が関与する銃撃事件で、一人の警官が発砲を開始した途端に他の警官も次々と同調し、弾倉を空にするまで撃ってしまった例がいくつもあります。
後に当事者に理由を尋ねると「同僚が撃ち始めたので、自分もつい反射的に撃ってしまった」といった回答が聞かれたといいます。
これはまさに前述した同調射撃の実例であり、集団下での衝動的行動がどのように発現しうるかを物語っています。
幸い多くの場合は容疑者に弾が命中していたものの、周囲10フィート以内の物にも多数被弾しており、もし付近に市民がいれば大惨事となっていた可能性があります。
このケースは、訓練や規律で抑制されないと人は周囲に釣られて撃ち過ぎてしまう現象を示し、衝動的判断の怖さを如実に示しています。
さらに、CQB訓練の効果検証研究も衝動的判断の改善余地を示しています。
2024年に発表された研究では、特殊部隊隊員と通常部隊の兵士(CQB未専門の兵士)を対象に短期集中のCQB訓練を実施し、前後で戦術遂行能力とストレス反応を測定しました。
その結果、訓練後にはCQB非専門の兵士の戦術行動が大きく向上し、ストレス反応も明確に低減していることが確認されました。
特に戦術行動面での改善として部屋のクリアリング手順や動きの正確さなどは顕著で、訓練によって短時間でもCQB遂行上の重要な技能が身につくことが示唆されました。
また訓練後には心拍数やストレスホルモン反応が訓練前より低下し、戦闘に対する心理的ストレス耐性が向上したことが示されました。
興味深いのは訓練前の予期不安、つまり戦闘前の緊張が高い人ほど訓練前の成績が良かった相関も見られ、『訓練前から適度な緊張感を持たせることがパフォーマンスにプラスになる可能性』も指摘されています。
これらの結果は、適切な訓練によって未熟な隊員の衝動的・無秩序な行動を抑え、計画的・冷静な行動へと改善できることを示しています。
すなわち、衝動的判断の問題は不可避なものではなく、訓練と経験の積み重ねによって克服し得る課題であると言えます。
【参考文献】
U.S. Army, FM 3-06 Urban Operations, Headquarters Department of the Army, 2006.
U.S. Army, FM 3-21.8: Infantry Rifle Platoon and Squad, 2007.
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