停戦への期待が、前夜の爆音でかき消された。イスラエルによるベイルート空爆が、まさに米イラン間の了解覚書署名が取り沙汰されていたその日に実行されたのだ。交渉を前に進めたい勢力と、それを根底から破壊したい勢力が、同じ土俵で全く異なる方向を向いている。この攻撃によって、合意への道筋は事実上、白紙に戻ったと言わざるを得ない。
イスラエルが狙ったのは、明白な交渉妨害である。彼らは過去にも、39日間の戦闘後に停戦合意を結んだ矢先、ベイルートを絨毯爆撃してすべてを台無しにした。今回のベイルート攻撃も、その焼き直しに過ぎない。
事態はより悪質で、今回は合意成立���目前に控えたタイミングで、イランが「越えてはならない一線」と定めていた首都を直接攻撃したのだ。この行為が持つ意味は一つしかない。いかなる合意も我々は守らない、というイスラエルからの明確なメッセージだ。
合意の枠組みそのものは、驚くほど具体的なところまで煮詰まっていた。イランのエネルギー��出に課された制裁の段階的解除、海外で凍結された巨額資産の解放手続き、そしてガザ地区でのジェノサイド停止とイスラエル軍の撤退要求がセットになっていた。
イラン側は、これまで数十年にわたり主張し続けてきた「核兵器は開発しない」という宗教令を再確認し、見返りとしてホルムズ海峡の民間船舶通航を正常化する用意も示していた。ただし、通航料の徴収と、敵対国船舶の通行を拒否する権利は、国家主権として絶対に譲れない一線だと釘を刺した上で。
問題の本質は、合意の中身そのものより、むしろその先にある。イラン国内で激しく燃え上がった論争の焦点は、アメリカが本当に約束を守るのか、という一点に尽きた。過去にトラウマがあるからだ。
2015年の核合意では、イランはすべての義務を履行したにもかかわらず、アメ��カ側が一方的に離��し、経済的な打撃だけが残った。今回の覚書にも、相手に履行を強制する確かな保証は組み込まれていない。
敵がレバノンで殺戮を続けている間、どうやって海峡を開けられるのか。資産の返還を口約束だけで信じろというのか。そうした疑念が、交渉チームと批判勢力との間で、合意がそもそも最終段階に達する前から激しく衝突していた。
そこで視点をずらすと、より根本的な疑問が浮上する。ホワイトハウスは、本当に自らの同盟国を制御する力を持っているのか、という疑問だ。
もし今回の空爆が、トランプ政権の頭越しに行われたのなら、アメリカ大統領にイスラエルを止める能力はなく、合意を履行する力もないという証明になる。
もし政権が裏で了解していたのなら、良心的な仲介者という顔は偽物だったと露見する。どちらに転ん���も、ワシントンとの交渉を続ける大義名分は音を立てて崩れ去���。
事態をさらに深刻にしているのは、イラン側の復讐の公算だ。自国が指定した「越えてはならない一線」を踏み越えられた以上、何らかの軍事的応答なしに済ますことは、国内政治的に考えられない。それは小規模な報復にとどまるのか、それともより広範な応酬の引き金となるのか。いずれにせよ、外交の時間は軍事行動の時間に押しつぶされようとしている。
イスラエルの指導部は、これを政治的生存のための賭けと捉えているのだろう。しかし、この行動が自らに突きつける長期的な代償を、彼らは過小評価している。世界は不況の瀬戸際で、ホルムズ海峡の緊張が解けるのを待ちわびている。
その希望を自らの手で粉砕したという事実は、国際世論がすでに「最も軽蔑される存在」と認定したこの政権への憎悪を、さらに深いものにする��けだ。出口を塞ぐ者が、最後に呼吸困難に陥る。その時、責任を問われるのは誰なのか。
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Prof. Seyed Mohammad Marandi(テヘラン大学教授、元イラン核交渉団顧問) 、Glenn Diesen(ノルウェー南東大学政治学教授)
対談 『Welcome back to the program... Seyed M. Marandi: Israel's Attack on Beirut Will Delay or Derail the US-Iran Deal』