IQOSは「煙の出ないタバコ」として世界で販売されてきた。だが、その蒸気を分析してみると、紙巻きタバコの煙と同じ発がん性物質が含まれている。私たちの研究チームは、IQOSの排出物が本当に「煙」ではないのか、そして健康リスクは本当に低いのかを化学的に検証した。
まず「煙」の定義から考えてみよう。煙もエアロゾル(細かな粒子が空気中に浮かんだ状態)の一種だ。メーカーは「IQOSは低温加熱で燃やさないから煙ではない」と主張する。しかし、独立研究ではIQOSの蒸気からスス(固体の炭素粒子)が見つかっている。これは、木を燃やした煙や紙巻きタバコの煙に含まれるのと同じ成分だ。
実は、IQOSの前に販売されていた別の加熱式タバコ「Eclipse」の蒸気は、メーカー自身が「煙」と呼んでいた。IQOSだけが煙ではないと言われるのは、化学的に見るとどうにも苦しい説明なのである。
もっと大きな問題は、安全性を比べる“ものさし”にある。メーカーの実験では、IQOS1本と紙巻きタバコ1本を比べて「有害物質が75%以上減った」と公表している。だが、ここに仕掛けがある。
IQOSのスティックに入っているタバコの葉は約0.2グラム。一方、比較に使われた標準的な紙巻きタバコは、吸い終わるまでに約0.65グラムもの葉を燃やす。つまり、有害物質の排出量が少なく見えたのは、単にタバコの葉の量が3.2分の1だったからにすぎないのだ。
この差を補正し、葉1グラムあたりの量で比べ直すと、衝撃の結果が出た。タール(発がん物質を含む粒子)の量は、IQOSのほうが紙巻きタバコの約2倍に跳ね上がったのである。
なぜこうした逆転が起きるのか。紙巻きタバコは高温で燃えるため、一度できたタールの多くが熱でさらに分解される。一方、IQOSの加熱温度は350度以下と低いため、タールが分解されずにそのまま残りやすい。低温だから安全というわけではなく、むしろ“ヤニ”が丸ごと出てくる構造になっている。
ここでもうひとつ、見逃せない熱の問題がある。IQOSの内部温度は本当に350度以下に保たれているのか。私たちの分析で、ある矛盾が見つかった。
タバコの葉にはもともと、微量のベンゾピレンなどの発がん性物質が環境から付着している。ところが、IQOSの加熱で、このもともとの量より多くの発がん性物質が出てくるケースがあったのだ。この種の物質は通常、500度以上の高温でなければ大量に発生しない。この事実は、スティック内部に部分的に高温になる「ホットスポット」ができ、目に見えない燃焼に近い状態が起きている可能性を示している。
さらに、使い込んだIQOSの内部を覗いてみると、加熱ブレードに黒いコゲとベッタリしたタールがこびりついている。メーカーは20本ごとの掃除を勧めるが、その間に溜まった残留物は、次の加熱で何度も熱せられ、単回の試験では測れない有害物質を放出してしまう。
新品のデバイスで測ったきれいなデータだけを信じるのは、焦げついたフライパンを洗わずに使い続けながら「煙が出ていない」と言うのに似ている。
実際、IQOSの排出物には、紙巻きタバコより多い物質が80種類も含まれていることが、米国FDAの審査で明らかになった。うち4種類は発がん性が疑われる化合物だ。有害物質の一部が減ったとしても、未知のリスクに置き換わっているだけかもしれない。
煙のないところに火は立たない。IQOSの蒸気は、火こそ見えなくとも、化学的に見れば低温で生じた煙である。本当に考えなければならないのは、「これは煙かどうか」ではなく、目に見えないこのリスクからどう身を守るか、なのかもしれない。
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研究論文 『Should IQOS Emissions Be Considered as Smoke and Harmful to Health? A Review of the Chemical Evidence』(IQOS排出物は煙であり健康に有害と見なすべきか:化学的証拠のレビュー)2022年
Clement N. Uguna(ノッティンガム大学 研究員)、Colin E. Snape(ノッティンガム大学 教授)
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