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アルツハイマー病の原因はアミロイドβだけではない。その思い込みが、実は治療の本筋を見えにくくしている。カビが生える湿った壁、地下室のこもった空気、そうした環境が放つカビ毒(マイコトキシン)こそが、脳に慢性炎症を引き起こす第三の経路だと指摘したのは、2021年の総説論文『アルテミシア属の抗ウイルス作用および免疫調整作用』だ。
著者のスハス・G・クシルサガルらは、アルツハイマー病のサブタイプとして「感染性(Krimi)」の概念を再評価している。このタイプ3に分類される症例は、ウイルスやカビ毒といった生体毒素への曝露によって惹起され、脳内で消えない炎がくすぶり続ける。タンパク質のゴミが神経を圧迫する前に、まず環境由来の毒が免疫系を狂わせる構図だ。
ならば治療の鍵は、毒素を排除することより、むしろ過剰な免疫応答を鎮めることにある。ここで浮上するのが、マラリア特効薬として知られたアルテミシニンとその誘導体、すなわちARTsである。
論文が繰り返し強調するのは、ARTsが単なる抗ウイルス薬や抗寄生虫薬の枠を超えて、NF-κB経路やTGF-βシグナルを遮断し、サイトカインの嵐を静めるという多面的な抑制力だ。病原体を直接叩くよりも、病原体に反応して暴走するヒト側の炎症連鎖を断ち切る。発想の重心が、外敵から内なる過剰防衛へと移っている。
この前提そのものが疑わしいと気づかされるのは、現代医学がつい単一の特効薬を追いかけるあまり、自然がもともと持っていた複合的な解決策を見失っていた点だ。アーユルヴェーダが2000年以上前に「クリミ(虫)」という概念で感染と炎症をひとくくりに捉え、ヨモギ属(アルテミシア)の全草を用いて対処してきた事実がある。カビ毒による炎症もアルテミシニンも、同じ生態系のせめぎ合いのなかにある。
現代の住宅は気密性を高め、私たちは脳を外界から隔絶された聖域のように扱ってきた。しかしその壁の内側で、カビ毒が静かに免疫系を損ない続けている。治すべきはアミロイドの斑ではなく、環境と免疫の壊れた対話なのかもしれない。そうだとしたら、窓を開けて風を通すことが何よりの治療になる時代が来る。
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研究論文 『Antiviral and Immunomodulation Effects of Artemisia』(アルテミシア属の抗ウイルス作用および免疫調整作用)2021年
Suhas G Kshirsagar、Rammohan V Rao
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