Top Tweets for #capcutcpp
小さな手が、三十年前の手形に重なる瞬間を、いちばん大事に作りました🤎
クリーニング店とコートと、深夜ラジオの物語です📻
CapCut AIで制作
使用:Seedance 2.0
@capcutapp_jp
#capcutcpp #zeradon #ぬのきおく
私も同じこと考えてCM作ってた🤣
でも提出忘れちゃってた🫣
VLNS 宇宙人のコーヒー、襲来
___
video studioで製作。capcut編集で音声合成。 #capcutcpp @capcutapp_jp
CapCut PC版のVideo Studioで、
VLNS BEERの架空CMを生成してみたよ🍺
あ~、喉が渇いてきたぁ笑
気になる方はチェック✅
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10月20日〜30日の期間中、デスクトップ版限定のCapCut PCオファーをご利用いただけます。
#CapCutPC #CapCut #capcutcpp
@capcutapp_jp
世界のサイトの約7割を支えるPHPに、認証なしでサーバーを乗っ取れる欠陥が2件(CVSS 9.2)
修正前に情報が流出し、ウマ娘やグラブルも緊急メンテに
しかも公式の修正版が出たのは8.2以上だけ。
何がやばいのか調べてみたので2分で解説👇
#PHP #PHP2Shell #脆弱性
#CapcutCPP
@capcutapp_jp
#シュバダンス
#シュバダンスバトル甲子園
#るーちゃん
エキシビジョンマッチ50人の部エントリーです。
ゆーき運営理事(@resonancediva)から指名をいただきました。
楽曲 「シュバダンス」 https://t.co/WWZZYTa3V3
※CapCut AIを使って制作した動画です。
#capcutcpp
@capcutapp_jp
落ちてるだけなのに神々しい
フリーフォールプロンプトをベースに
実写から絵柄を変えて挑戦。
アニメ系にするとフリーフォール感が落ちますが、絵柄やキャラによっては
強キャラの登場シーン感にもなりそう
Create by CapCut
@capcutapp_jp #CapCutCPP
#ロボットカーニバル
ロング部門にMV応募しました
祀る意味を考えながらひたすら踊らせてますw
#capcutcpp
@capcutapp_jp
動画生成、編集はcapcut
音楽はsuno で作成しております
https://t.co/qOc8bwqR6X
MY CAPCUT WORLD
Created using capcut video studio desktop @capcutapp
#capcutworld #capcutworldla #capcutcpp #capcutai #waysccw
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キャラクター部門とショートアニメ部門に応募しました。
AI bot「ルル」
大きな耳で、遠くの助けを呼ぶ声をキャッチ。
聞こえたら、羽ばたいてどこへでも飛んでいき、助ける。
やさしくて世話好き。
#capcutcpp @capcutapp_jp
CapCut AIを使用して制作しました。
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鳩男_ある一流の日常_
#3_焼きたての午後
たい焼きを頭から食べるか、尻尾から食べるか。
🎬この作品はCapCut AIを使って制作しました。
@capcutapp_jp
#CapCut
#capcutcpp
#鳩男
たい焼きを頭から食べるか、尻尾から食べるか。
前の職場の休憩室で、この話題で四十分もめたことがあります。
誰かが差し入れでたい焼きを買ってきて、箱を開けた瞬間に、隣の席の先輩が「俺は頭から」と宣言した。
そこから全員が自分の派閥を名乗りはじめた。
頭派の言い分は、「あんこがいちばん詰まっているところから食べたい」。
尻尾派の言い分は、「最後にあんこがたっぷりのところが残るのがいい」。
どっちも、あんこの話をしている。
途中で、背びれからかじる人と、お腹から二つに割る人が出てきて、議論はさらにややこしくなりました。
僕はお腹から割る派です。
割った瞬間に湯気が上がるのが好きで、割ってから、頭のほうを先に食べる。
そう言ったら、先輩に「それは結局、頭派だ」と言われました。
割ったあとの順番で派閥が決まるらしい。
いちばん静かだったのは、課長でした。
議論のあいだ、何も言わずに一匹食べ終わっていた。
「課長はどっちからですか」と聞いたら、「どっちだったかな」と言った。
覚えていないくらい、ふつうに食べていた。
四十分もめていた僕らより、たぶん課長のほうが、たい焼きをおいしく食べていたと思います。
たい焼きには、「天然物」と「養殖物」があるそうです。
もちろん本物の魚の話ではありません。
一匹ずつ焼く型で焼いたものを天然物、何匹もいっぺんに焼ける大きな鉄板で焼いたものを養殖物と呼ぶ。
誰が言い出したのかは知らないけど、言い得て妙です。
一匹ずつ焼く型は、長い柄のついた鉄の型を一本ずつ火にかけて、ひっくり返しながら焼いていく。
重いし、熱いし、手間がかかる。
そのかわり、皮が薄くてぱりっとすると言われています。
実家の近くの商店街に、その一匹ずつ焼く店がありました。
店のおじいさんが、ガラスの向こうで十本くらいの型を順番にひっくり返していく。
がちゃん、がちゃん、と鉄の音がする。
ひっくり返すたびに、型の継ぎ目から白い湯気が上がる。
子どものころ、僕はガラスに額をくっつけて、ずっとそれを見ていました。
おじいさんの手首は、ものすごく太かった。
毎日何百回も鉄の型を返していると、ああなるんだと思います。
一度、「重くないの」と聞いたことがあって、おじいさんは「重いよ」とだけ言いました。
それで、また型を返した。
日本でいちばん売れたシングルレコードは、たい焼きの歌だと言われています。
1975年に出た「およげ!たいやきくん」です。
子ども番組の中の歌から火がついて、ものすごい枚数が売れた。
毎日鉄板の上で焼かれるのが嫌になったたい焼きが、店を飛び出して海へ逃げていく、という話の歌です。
叔父は、カラオケに行くと必ずこの歌を入れます。
十八番というより、ほかの歌をほとんど知らない。
最初は陽気に歌いはじめるんですが、後半になると、だんだん声が小さくなっていく。
海に逃げたたい焼きのその後を歌うあたりで、叔父はいつも少しだけ目を赤くしている。
一度、「なんでいつもそこで泣くの」と聞いたことがあります。
叔父は「子どものころは、楽しい歌だと思ってたんだよ」と言いました。
大人になって聴くと、毎日同じ鉄板の上で焼かれて、そこから逃げ出して、という話が、急に他人事じゃなくなったらしい。
叔父はそのとき、工場の夜勤をしていました。
それでも叔父は、毎回その歌を入れる。
泣くとわかっていても入れる。
歌い終わると、たいてい「さ、次」と言って、マイクを置きます。
商店街を歩いていて、いちばん足が止まるのは、肉屋の前です。
正確には、肉屋の店先の、揚げ物のショーケースの前。
夕方前になると、店の奥でコロッケを揚げる音がして、油の匂いが通りまで流れてくる。
揚げたてのコロッケが、紙に包まれて一個いくらで売られている。
大学生のころ住んでいた町の商店街では、肉屋のコロッケが一個八十円でした。
バイトの帰りに一個だけ買って、歩きながら食べる。
紙越しでも熱くて、持ち替えながら食べる。
衣がざくっとして、中のじゃがいもがほくほくで、ソースなんかいらなかった。
ある日、いつものように一個頼んだら、店のおばちゃんが二個包んでくれた。
「一個、形が悪いのができたから」と言っていました。
見たら、どっちのコロッケもきれいな形をしていた。
どっちが形の悪いほうなのか、最後までわかりませんでした。
その商店街の肉屋は、僕が卒業する前の年に店を閉めました。
シャッターに「長い間ありがとうございました」という紙が貼られていて、その下に、近所の子どもが描いたらしいコロッケの絵が一枚貼ってあった。
コロッケの絵に、顔が描いてありました。
僕は猫舌です。
焼きたてのものが好きなのに、焼きたてのものが食べられない。
たい焼きも、コロッケも、肉まんも、受け取ってからしばらくは手に持ったまま眺めている。
一緒にいる人が先に食べはじめて、「熱っ」と言いながら笑っているのを、横で見ている。
高校の文化祭で、クラスの模擬店がたこ焼きだったことがあります。
僕は焼く係でした。
千枚通しでくるくる返すのはすぐ覚えたのに、味見を頼まれるたびに困った。
できたてを口に入れると、中から熱いのが出てきて、何も言えなくなる。
涙目で親指を立てるしかない。
クラスのみんなは、僕が感動して泣いていると思っていたらしいです。
猫舌の人は、焼きたてのいちばんいい瞬間を、いつも少しだけ逃している。
でも、そのかわり、ちょうどいい温度になったときのおいしさを、たぶん誰よりも知っています。
冷めかけのたい焼きの皮の、少ししっとりしたところが好きです。
誰にも共感されたことはありません。
アーケードの商店街には、たいてい鳩が住んでいます。
看板の裏や、アーケードの骨組みの隙間に巣を作る。
雨が当たらなくて、人がたくさん通って、食べ物のかけらが落ちている。
鳩からすると、たぶん一等地です。
実家の近くの商店街では、店の人たちがあの手この手で鳩を追い払おうとしていました。
看板の上に、とげとげのついた板を取り付ける。
古いCDを紐で吊るして、光らせる。
目玉の模様の風船をぶら下げる。
効いているのかどうか、よくわからない。
CDの横に、鳩が平気な顔で止まっているのを何回も見ました。
たい焼き屋の前には、いつも何羽か鳩がいた。
子どもがこぼした皮のかけらを狙っている。
たい焼き屋のおじいさんは、鳩を追い払わなかった。
型をひっくり返しながら、横目で鳩を見ている。
「あいつらも、焼きたてがわかるんだよ」と言っていました。
焼き上がる時間になると、鳩が増えるらしい。
商店街の福引で、金色の玉を見たことがありますか。
年末になると、商店街のどこかの角にテントが立って、ガラガラと回す抽選器が置かれる。
あの八角形の箱を回す道具には、正式には「新井式回転抽選器」という名前があるそうです。
ずっと「ガラガラ」だと思っていました。
祖母は、あの福引が大好きでした。
年末の買い物でレシートをためて、補助券を集めて、何回分かまとめて回しに行く。
僕も何度かついて行きました。
祖母は一回一回、ハンドルを両手でつかんで、ゆっくり回す。
速く回す人と、ゆっくり回す人がいて、祖母は「ゆっくりのほうが当たる」と信じていた。
出てくるのは、ほとんど白い玉です。
ポケットティッシュ。
祖母は毎年、ティッシュを十個くらい抱えて帰ってきました。
一度だけ、赤い玉が出て、商店街の商品券五百円分が当たった。
係の人がハンドベルを鳴らして、祖母はちょっと照れていました。
金色の玉が出るのを見たのは、一回だけです。
僕らの前に並んでいた、知らない小学生の女の子でした。
一等の温泉旅行。
係の人が鐘を鳴らしまくって、周りの大人が拍手して、女の子は何が起きたのかわからない顔で立っていた。
祖母がいちばん大きな拍手をしていました。
パン屋の店先に、「焼き上がり時間」の札が出ていることがあります。
「食パン 11時」「メロンパン 14時」「カレーパン 15時半」。
手書きのボードに、時間が並んでいる。
あれを見ると、なぜかその時間に合わせて店に行きたくなる。
焼きたてを買うために、予定を組みかえる。
一度、メロンパンの焼き上がりに合わせて店に行ったら、店の前にもう五人並んでいました。
みんな同じボードを見て、同じ時間に来た人たちです。
知らない人同士なのに、なんとなく仲間意識がある。
焼き上がりが五分遅れて、列の全員が同じタイミングで腕時計を見た。
焼きたてのメロンパンは、表面のクッキー生地がまだ少しやわらかくて、手で持つと形が崩れそうになる。
店を出てすぐ、我慢できずにひと口かじったら、前に並んでいたおじさんも、店の前で同じことをしていた。
目が合って、二人とも少し笑いました。
豆腐屋のラッパの音も、焼きたてと同じ種類の音だと思います。
子どものころ、夕方になると、豆腐屋さんが自転車でラッパを鳴らしながら住宅街を回っていた。
「パー、プー」と、二つの音を繰り返す。
あれが「とーふー」と聞こえるように吹いているんだと、ずっとあとになって知りました。
ラッパが聞こえると、母が鍋を持って外に出る。
鍋を持っていくと、豆腐屋さんが水の中から豆腐をすくって、そのまま鍋に入れてくれるんです。
パックなんかない。
まだ温かい豆腐が、鍋の中でぷるぷる揺れていた。
あの豆腐屋さんがいつ来なくなったのか、覚えていません。
気づいたら、ラッパの音を聞かなくなっていた。
最初にラッパを聞いた日のことも、最後に聞いた日のことも、どっちも覚えていない。
毎日あったものは、毎日あったことしか覚えていないんですね。
八百屋のおじさんの計算は、だいたい雑でした。
商店街の角の八百屋で、母が野菜を何品か買うと、おじさんは暗算で値段を言う。
「三百八十円……三百円でいいや」。
端数を切り捨てる。
切り捨てる額が、日によって違う。
機嫌がいい日は、五百円台が四百円になる。
子どものころ、母に「なんでおじさんは値段をまけてくれるの」と聞いたことがあります。
母は「そのかわり、また来るでしょ」と言いました。
実際、母は毎週その八百屋に行っていた。
スーパーのほうが安い日があっても、八百屋に行く。
一度、おじさんが計算を間違えて、本当の値段より高く言ったことがあります。
母が「あれ、それ高くない?」と言ったら、おじさんは指を折って数え直して、「あ、ほんとだ」と言った。
それから「じゃあ、これ持ってって」と言って、みかんを三つ袋に入れた。
間違えた分より、たぶんみかんのほうが高かった。
おじさんの店は、いまはおじさんの息子さんがやっています。
レジが入って、端数はきっちり一円単位で出るようになった。
それでも、たまに「これ、持ってって」と言って、何か一個おまけをつけてくれるそうです。
計算は正確になったけど、おまけは残った。
商店街のアーケードには、雨の日に助けられた記憶があります。
学校の帰り道、急に雨が降りだしたとき、傘のない子どもはみんな商店街に逃げ込んだ。
アーケードの下なら、傘がなくても濡れない。
家の方向が商店街の端から端まで続いている子は、ほとんど濡れずに帰れる。
僕の家は、商店街の出口からさらに五分歩いた先にありました。
出口で雨がやむのを待っていると、横の文房具屋のおばあさんが、ビニール傘を一本貸してくれた。
「返すのはいつでもいいよ」。
翌日返しに行ったら、店の奥に同じビニール傘が十本くらい立てかけてありました。
貸し出し用の傘です。
戻ってこないのもあるだろうに、とおばあさんに言ったら、「戻ってきたぶんだけでいいのよ」と言っていました。
アーケードの屋根には、子どもが打ち上げたボールが何個か乗っていました。
下から見上げると、半透明の屋根越しに、ボールの影が丸く見える。
誰も取りに行けない。
年に一回くらい、屋根の掃除の業者さんが来て、ボールを全部下ろしてくれる日があった。
その日だけ、商店街の真ん中に、色とりどりのボールの山ができた。
持ち主は誰も名乗り出ない。
近所の子どもたちが、好きなのを一個ずつ持って帰りました。
中学校の校則に、「買い食い禁止」がありました。
部活の帰りに、商店街で何か買って食べるのがだめ。
でも、冬の部活帰りに、肉屋の前を通ると、どうしても肉まんの湯気が目に入る。
コンビニより安くて、大きい。
みんなで考えた抜け道が、「買って、家まで持って帰る」です。
食べなければ、買い食いじゃない。
肉まんを紙袋に入れたまま、それぞれの家に向かって歩く。
一番家が近いやつの家の前で、なぜか全員立ち止まる。
そいつの家の玄関に入ったら、そこはもう「家」なので、食べていい。
玄関で五人並んで肉まんを食べました。
そいつのお母さんが出てきて、「なんで玄関で食べてるの」と聞いた。
説明したら、お母さんは笑って、お茶を五杯持ってきてくれました。
次の週から、その玄関は部活帰りの食堂になった。
学校にばれたかどうかは、知りません。
先生も、たぶん同じことをやっていた世代です。
たい焼きのあんこにも、こだわりのある人がいます。
祖父は、粒あん以外を認めない人でした。
こしあんのたい焼きを出されると、黙って食べるけど、食べ終わったあとに「これは、まんじゅうだな」と言う。
たい焼きだと認めていない。
最近は、カスタードやチョコのたい焼きもふつうに売っています。
初めてカスタードのたい焼きを祖父に買っていったとき、祖父はひと口食べて、しばらく考えて、「これは、シュークリームだな」と言いました。
食べ終わってから、もう一匹のカスタードに手を伸ばしていた。
認めてはいないけど、気に入ってはいた。
祖父の分類では、粒あんのものだけがたい焼きで、それ以外は全部、別の食べ物がたい焼きの形をしているだけでした。
形より中身を見ていた人です。
いまの商店街の店では、包み紙はだいたい専用の紙袋です。
子どものころは、新聞紙で包んでいる店がまだありました。
焼き芋屋さん、八百屋の葉物、魚屋の干物。
包み紙の内側に、昨日のテレビ欄が逆さまに印刷されている。
家に帰って野菜を出すと、新聞紙を広げて、なんとなく読んでしまう。
知らない町のスーパーのチラシの値段とか、去年の野球の結果とか。
焼き芋を新聞紙で包むのは、保温のためだったそうです。
紙が何枚も重なっていると、熱が逃げにくい。
新聞紙の内側が、芋の湯気でしっとりしている。
その湿った新聞紙ごと抱えて、走って帰った。
いまは焼き芋も、専用の紙袋に入っている。
袋には店の名前と、「熱いのでお気をつけください」の文字。
親切になった。
ただ、知らない町のチラシを読む楽しみはなくなりました。
鎌倉に、鳩の形のサブレーがあります。
黄色い缶に入った、鳩サブレー。
鎌倉のお土産といえば、たぶんこれを思い浮かべる人が多いと思います。
鶴岡八幡宮の本殿にかかっている額の「八」の字が、向かい合った二羽の鳩の形をしていて、八幡さまの使いが鳩だとされていることにちなんでいるそうです。
鳩サブレーを食べるとき、どこから食べるかでも、やっぱり派閥が分かれます。
頭から食べる人、尻尾から食べる人、羽のところをぽきっと折る人。
たい焼きと同じ議論が、鳩でも起きる。
動物の形をした食べ物は、どれも同じ運命をたどるのかもしれません。
うちの母は、鳩サブレーを必ず尻尾から食べます。
理由を聞いたら、「目が合うと食べにくいから」と言っていました。
最後に頭が残るので、結局最後に目が合う。
母はそのとき、いつも少しだけ間を置いてから、ひと口で食べています。
三時のおやつ、という言い方があります。
「おやつ」の語源は、江戸時代の時刻の数え方で、昼過ぎの時間を「八つ」と呼んでいたことから来ているそうです。
その時間に軽く何か食べる習慣があって、「お八つ」になった。
つまり、おやつは食べ物の名前じゃなくて、もともと時刻の名前だった。
小学生のころ、学童保育に通っていました。
午後三時になると、先生がおやつを配る。
せんべいが二枚とか、ビスケットが三枚とか、たまにバナナ半分。
おやつの時間が近づくと、遊んでいた子たちが、なんとなく部屋の真ん中に集まってくる。
時計を読めない一年生まで集まってくる。
体が時刻を覚えていたんだと思います。
大人になったいまでも、午後三時ごろになると、口が何か甘いものを欲しがる。
会社の机の引き出しには、そのためのチョコが入っています。
江戸時代から続いている体内時計が、まだ動いている。
商店街の真ん中あたりに、時計屋がありました。
間口の狭い店で、ショーケースの中に腕時計が並んでいて、壁には掛け時計がびっしり掛かっている。
全部の時計が、少しずつずれた時刻を指していた。
正午になると、壁の時計が順番に鳴りはじめる。
一斉には鳴らない。
ぽーん、ぽーん、と、ばらばらに三十秒くらいかけて鳴り終わる。
店の奥には、いつも片目にルーペをはめたおじいさんが座っていました。
小さなドライバーで、腕時計の裏ぶたを開けて、何かを直している。
ルーペのせいで、片方の目だけが大きく見える。
子どもには少し怖かった。
中学の入学祝いにもらった腕時計の電池が切れたとき、母に言われてその店に持っていきました。
おじいさんはルーペをはめたまま、三分くらいで電池を替えてくれた。
替え終わると、壁の時計を一個ずつ見回して、それから自分の腕時計を見て、僕の時計の針を合わせた。
壁の時計はばらばらなのに、おじいさんの腕時計だけは正確だったんだと思います。
「壁の時計は、なんで合わせないんですか」と聞いたら、おじいさんは「売り物だから、お客さんが合わせるんだよ」と言った。
買った人が、自分の時間に合わせる。
それまでは、どの時計も自分の時間で動いている。
いまでも、あの店の正午の、ばらばらに鳴る時計の音を思い出します。
職人さんの手元を、ガラス越しに見るのが好きです。
餃子の専門店で、店の奥の作業台で、二人のおばちゃんが餃子を包んでいた。
皮を手のひらに乗せて、あんを置いて、ひだを寄せる。
一個にかかる時間は、たぶん三秒くらい。
手が速すぎて、ひだを何回寄せているのか数えられない。
包み終わった餃子が、トレーにきれいに並んでいく。
おばちゃんたちは、手を動かしながら、ずっと世間話をしていました。
孫の運動会の話。
手元を一度も見ない。
何十年も同じ動きを繰り返してきた手は、もう目がいらないんだと思います。
あの手元を見ていると、時間を忘れる。
自分が三秒で何かをできるようになるまでに、どれだけかかるんだろうと考える。
たぶん、一生かかっても餃子は三秒で包めない。
それでも見ていたい。
たい焼きを紙袋に入れて持ち帰ると、家に着くころには皮がしんなりしています。
湯気が紙袋の中にこもって、ぱりっとしていた皮が、しっとりやわらかくなる。
焼きたてを店先で食べるのと、家に持ち帰ってから食べるのとでは、ほとんど別の食べ物です。
母は、持ち帰ったたい焼きを必ずオーブントースターで温め直していました。
二分くらい焼くと、皮がまたぱりっとする。
焼きすぎると尻尾が焦げる。
母はトースターの前に立って、扉の窓からずっと中を見張っていた。
たい焼きを焼く店のおじいさんと、同じ顔をしていました。
一度、母がトースターから目を離した隙に、尻尾が真っ黒になったことがあります。
母は黙ってその一匹を自分の皿に取って、焦げた尻尾から食べはじめた。
いつもは頭から食べる人なのに。
いちばんおいしいのは、たぶん店先です。
焼き上がったばかりのたい焼きを、紙一枚で受け取って、その場でかじる。
熱くて、ほとんど味がわからない。
でも、あの熱さごと覚えている。
それで、焼きたての午後を30秒にしました。
「鳩男 ― ある一流の日常 ―」の第3話、「焼きたての午後」。
商店街で、鳩男がたい焼きを買う。
起きることはそれだけです。
ナレーションは、それを一流の男の午後として、大まじめに語ります。
頭から食べるのか、尻尾から食べるのか。
課長みたいに、覚えていないくらいふつうに食べるのか。
そこは映像で確かめてもらえたらと思います。
第1話は夕暮れのベンチ、第2話は十円足りない夜、そして第3話は商店街の午後。
▼こんな人に
たい焼きを頭から食べるか尻尾から食べるかで揉めたことがある人/一匹ずつ焼く「天然物」のたい焼きが好きな人/商店街の揚げたてコロッケを歩きながら食べたい人/福引のガラガラを両手でゆっくり回す人/パン屋の焼き上がり時間に合わせて出かける人/豆腐屋のラッパを覚えている人/鳩サブレーをどこから食べるか決めている人/午後三時になると甘いものが欲しくなる人/職人の手元をガラス越しにずっと見ていられる人/AI動画・生成AIの映像に興味がある人。
鳩男 ― ある一流の日常 ―
#2 十円の夜
コンビニの帰り道、自販機の前に立った鳩男が、十円足りないことに気づく。
🎬 映像:CapCut AI動画生成
CapCut AIを使用してSeedanceで制作
@capcutapp_jp
#capcut生成ai #鳩男
小学生のころ、自販機の下をのぞくのが日課だった時期があります。
学校の帰り道に、酒屋の前の自販機が三台並んでいた。
その前を通るたびに、しゃがんで、下の隙間をのぞく。
暗くてほとんど見えないけど、たまに奥のほうで何かが光る。
光ったら、それは硬貨です。
手は入らないので、道具がいる。
兄はランドセルから三十センチの定規を出して、隙間に差し込んで、光ったものをかき出していました。
出てくるのは、だいたい砂と、ペットボトルのキャップと、ガムの包み紙。
十回に一回くらい、十円玉が出てくる。
百円玉は、僕の記憶では一回だけでした。
その百円玉が出てきた日、兄は定規を握ったまま、しばらく動かなかった。
それから「これは、交番だな」と言いました。
二人で近くの交番に持っていったら、おまわりさんが書類を出してきて、名前と住所を書かされた。
百円のために、兄は書類を一枚書いた。
おまわりさんは最後に「えらいね」と言って、それでおしまいでした。
帰り道、兄は「十円のときは届けなくていいのかな」と言っていました。
僕は答えられなかった。
いま考えても、よくわかりません。
ただ、兄が定規を自販機の下に入れるのは、その日を最後にやめた。
十円玉のなかに、ふちにギザギザのついたものがあります。
ギザ十と呼ばれていて、昭和二十六年から三十三年までに作られたものだけ、ふちに溝が刻まれている。
いまの十円玉のふちはつるっとしているので、触ればわかる。
子どものころ、おつりにギザ十が混ざっていると、ちょっと得をした気分になりました。
祖父は、ギザ十を空き瓶にためていました。
インスタントコーヒーの空き瓶で、台所の棚のいちばん上に置いてある。
おつりにギザ十が来ると、使わずにその瓶に入れる。
僕が遊びに行くと、たまに瓶を下ろして、中身をテーブルに広げて見せてくれた。
全部で何枚あったのか、数えたことはありません。
祖父も数えていなかったと思います。
あるとき、祖父に「これ、高く売れるの?」と聞いたことがあります。
祖父は「売れない」と即答しました。
状態がよほどよくないかぎり、ギザ十は普通の十円玉と同じ値段にしかならないらしい。
「じゃあなんで集めてるの」と聞いたら、「ギザギザだから」と言われました。
理由になってない。
祖父が亡くなったあと、その瓶は母が引き取りました。
いまも実家の台所の棚の、同じくらいの高さに置いてあります。
母はそこにギザ十を足してはいない。
ただ、捨ててもいない。
十円玉の表には、平等院鳳凰堂が描かれています。
屋根の上には、鳳凰が二羽。
十円玉を虫めがねで見ると、ちゃんと鳥の形をしているのがわかります。
毎日みんなが財布に入れて持ち歩いている、いちばん身近な鳥の絵かもしれません。
小学四年の夏休み、自由研究で十円玉を磨きました。
茶色くくすんだ十円玉を何枚か用意して、いろんな液体に漬けてみる。
お酢、レモン汁、ソース、ケチャップ、醤油、塩水。
クラスの半分くらいが同じテーマを選んでいた気がします。
誰かのお兄ちゃんが毎年やっていたのが、代々受け継がれていた。
結果は、ソースとケチャップがよく効きました。
お酢と塩が入っているものは、銅の表面のくすみを落とすらしい。
漬けて十分くらいで取り出して、水で洗うと、新品みたいな赤っぽい色になる。
並べて写真を撮って、模造紙に貼りました。
問題は、磨いた十円玉の使い道です。
ピカピカの十円玉は、なんだか使うのがもったいない。
かといって、取っておいてもまたくすむ。
結局、駄菓子屋で使いました。
おばちゃんが「あら、きれいだね」と言って、レジの引き出しにしまった。
あの十円玉は、そのあと誰の財布に入ったんでしょうか。
たぶん、とっくに茶色に戻っています。
初詣で、お賽銭に十円玉を入れようとして母に止められたことがあります。
「十円は、遠縁になるからやめなさい」。
五円は「ご縁」、十円は「遠縁」。
ただの語呂合わせです。
でも母は真剣でした。
財布を探したら五円玉がなくて、母が自分の財布から五円玉を一枚くれた。
神様が語呂合わせを気にするのかどうかは、わかりません。
神社の人に聞いたら、たぶん「お気持ちですから」と言われると思います。
それでも、お賽銭箱の前で十円玉を握ったまま固まったあの数秒は、ちょっと面白かった。
十円玉が、急に縁を遠ざける呪いのアイテムになった。
それ以来、お賽銭のときだけは小銭入れの中を確認する癖がついています。
十円玉しかない年は、百円玉を入れる。
百円は何の語呂合わせなのか、母に聞いたことはありません。
中学生のころまで、携帯電話を持っていませんでした。
塾の帰り、迎えを頼むときは、駅前の公衆電話から家に電話する。
緑色の電話で、十円玉を入れて番号を押す。
母が出たら、「終わった」とだけ言って切る。
それで通じた。
十円で話せる時間は短いので、用件だけを言う癖がついていました。
ある晩、十円玉を入れて番号を押したら、知らないおばあさんが出ました。
番号を一個間違えたんです。
慌てて「すみません、間違えました」と言ったら、おばあさんが「いいのよ、どちらにかけたかったの」と聞いてきた。
答えているうちに、ピーという音が鳴りはじめた。
残り時間が少ないときの音です。
おばあさんは「あら、もう切れちゃうね」と言って、「気をつけて帰りなさいね」と言った。
そこで電話が切れました。
十円で、知らないおばあさんに気をつけて帰りなさいと言われた。
財布の中を見たら、十円玉はもう一枚もなかった。
仕方がないので、駅から家まで歩いて帰りました。
四十分くらいかかった。
家に着いたら、母に「電話しなさいよ」と怒られました。
いまはスマホがあるので、番号を間違えることも、十円が足りなくなることもありません。
駅前の公衆電話も、ずいぶん数が減りました。
たまに見かけると、受話器が少し日に焼けている。
高校生になると、十円玉の代わりにテレホンカードを持つようになりました。
五十度数とか百五度数とか、使える量が数字で書いてある。
使うたびにカードの端に小さな穴が開いて、残りがわかる仕組みでした。
穴が端まで来ると、もうほとんど残っていない。
最後の一度数を使い切ると、電話機がカードを吐き出して、ピーピーと鳴る。
その音がけっこう大きくて、周りの人に「この人、度数を使い切ったな」とばれる。
当時、テレホンカードには絵柄がいろいろあって、懸賞の景品やお店の記念品として配られていた。
アイドルの写真のカードは、もったいなくて使えない。
使わないまま、机の引き出しにたまっていく。
実家の引き出しにはいまも何枚か残っていて、穴は一個も開いていません。
小学生のころ、電車の切符で十円足りなかったこともあります。
一人で祖母の家に行くことになって、母に運賃ぶんの小銭を持たされた。
ところが降りる駅を一つ乗り過ごしてしまい、戻ってきたら、手持ちの切符では改札を出られない。
改札の横の精算機に切符を入れたら、「10円」と表示された。
ポケットには、一円も残っていなかった。
改札の窓口に行って、駅員さんに事情を話しました。
駅員さんは少し考えて、「次に来たとき払ってね」と言って、通してくれた。
次にその駅に行ったのは、半年後でした。
窓口で十円を出したら、違う駅員さんが出てきて、何の十円かわからずに困っていた。
事情を説明すると、駅員さんは困った顔のまま十円を受け取って、「ご丁寧にどうも」と頭を下げてくれました。
あの十円が帳簿のどこに入ったのかは、知りません。
近所の駄菓子屋では、十円足りなくても、だいたいなんとかなりました。
店番のおばちゃんは、子どもが十円足りないと、「今度でいいよ」と言う。
帳面もつけない。
覚えているのかいないのかもわからない。
でも次の日に十円を持っていくと、「はいよ」と受け取ってくれる。
ある日、僕は十円の借りを返し忘れたまま、一週間くらいたってしまいました。
気づいたときには、もう恥ずかしくて店に行けなかった。
店の前を通るたびに、なんとなく早足になる。
三週間くらいそれが続いて、ついに観念して、十円を握りしめて店に行きました。
「この前の十円です」と言って差し出したら、おばちゃんはきょとんとして、「何の十円?」と言った。
覚えていなかったんです。
三週間、店の前を早足で通っていたのは、なんだったのか。
おばちゃんはそれでも十円を受け取って、「じゃあ、これおまけね」と言って、ガムを一個くれました。
十円のガムです。
差し引きゼロ。
駄菓子屋の十円といえば、うまい棒です。
何十年も十円のままで、子どもの小遣いの単位みたいなお菓子でした。
百円玉を握って駄菓子屋に行けば、うまい棒が十本。
味を全部そろえて、一本ずつ食べ比べる。
それが2022年に十二円に値上がりしたとき、ニュースで大きく取り上げられていました。
二円の値上げで全国ニュースになるお菓子は、たぶんほかにない。
あのニュースを見て、ちょっと寂しくなったのを覚えています。
いまの子どもは、百円玉でうまい棒を八本しか買えない。
残りの四円で何を買うのか。
駄菓子屋のおばちゃんなら、たぶん「おまけね」と言って九本目を渡してくれる。
夜、父が缶コーヒーを買いに行くのについて行くのが好きでした。
父は晩ごはんのあと、たまにふらっと外に出る。
行き先は、家から歩いて二分の自販機です。
僕がサンダルをつっかけて追いかけると、父は何も言わずに歩く速さを少しだけ落とした。
自販機の前で、父は小銭入れを開けて、手のひらに硬貨を出す。
十円玉を親指で一枚ずつ横にずらして数える。
百円玉一枚と十円玉を数枚、必要な分だけ投入口に入れて、残りを小銭入れに戻す。
その手つきが、子どもの目にはすごく大人に見えました。
僕は小銭を数えるとき、全部手のひらに広げてしまうので。
父は缶コーヒーを買うと、僕にも「何か飲むか」と聞く。
僕はだいたいオレンジジュースを選んだ。
二人で自販機の前に立って、黙って飲む。
飲み終わると、空き缶を自販機の横のゴミ箱に入れて、また二分歩いて帰る。
あの往復四分に、何か話をした記憶はほとんどありません。
ただ、冬の夜に父の缶コーヒーから湯気が上がっていたのと、父が手のひらで十円玉を数える音だけ覚えている。
父はいまでも、ときどき夜に自販機まで歩いていくそうです。
母によると、最近はスマホで払っているらしい。
十円玉を数える音は、もうしない。
伝書鳩という鳥がいます。
鳩には、遠く離れた場所から自分の巣に帰ってくる力がある。
それを使って、昔は手紙や写真を運ばせていました。
日本の新聞社も、昭和の中ごろまで、取材先から写真のフィルムを鳩に運ばせていたそうです。
屋上に鳩小屋があって、記者が現場に鳩を連れていく。
撮ったフィルムを足の筒に入れて放すと、鳩が会社まで飛んで帰る。
いまでも鳩のレースをやっている人たちがいて、何百キロ、遠いときは千キロ近く離れた場所から、鳩を放して帰ってくる速さを競うそうです。
どうやって帰り道がわかるのかは、太陽の位置だとか、地球の磁気だとか、匂いだとか、いくつか説がある。
全部を使っているのかもしれません。
ただ、鳩は基本的に夜は飛ばないそうです。
暗くなったら、どこかに止まって朝を待つ。
帰り道の途中で日が暮れたら、そこで一泊する。
急がない。
子どものころ、近所に鳩小屋を持っているおじさんがいました。
家の屋根の上に、木でできた小屋があって、夕方になると鳩がそこに帰ってくる。
おじさんは屋根に上って、帰ってきた鳩の数を数えていた。
一羽足りない日は、暗くなるまで屋根の上に座っていました。
暗くなったら、もう鳩は帰ってこないとわかっているはずなのに。
翌朝、足りなかった一羽が帰ってきていると、おじさんは近所に聞こえるくらいの声で「帰ったか」と言いました。
僕はそれを、通学路で何回か聞きました。
終電を逃して、駅から家まで歩いたことが何度かあります。
いちばん長かったのは、社会人一年目の忘年会の夜でした。
乗り換えの駅で終電が出たあとで、タクシー乗り場には長い列。
家まで歩いて二時間弱。
酔いもあって、歩くことにしました。
夜中の一時過ぎの大通りは、昼とまったく違う顔をしていました。
信号だけが律儀に色を変えている。
車が一台も来ないのに、赤信号で立ち止まる。
誰も見ていないのに、なぜか守る。
途中、高架下を通ったら、梁の上に鳩が何羽も並んで寝ていました。
首を体にうずめて、丸くなっている。
昼間は地面を忙しく歩き回っているのに、夜はああやってじっとしているんだと、そのとき初めて知りました。
僕が下を通っても、一羽も起きなかった。
家に着いたのは三時過ぎ。
玄関の前で鍵を探して、ポケットから出てきたのは、十円玉が一枚とレシートが一枚でした。
鍵は鞄の内ポケットにあった。
その十円玉を見て、ああ、あの自販機で百三十円のお茶を買うにはぜんぜん足りないな、と思ったのを覚えています。
途中で喉が渇いていたんです。
二時間、何も飲まずに歩いていた。
夜のコンビニには、昼とは違う空気があります。
大学生のころ、深夜のコンビニでアルバイトをしていました。
夜十時から朝六時まで。
零時を過ぎると、お客さんの種類が変わる。
仕事帰りの人、タクシーの運転手さん、夜勤明けの看護師さん、眠れない学生、散歩中の老夫婦。
みんな、ちょっとだけ疲れた顔で、ちょっとだけ肩の力が抜けている。
毎晩二時ごろに来る男の人がいました。
スーツの上着を腕にかけて、缶コーヒーとおにぎりを一個買う。
いつも同じ組み合わせ。
三か月くらいたったころ、その人が缶コーヒーをレジに置いたまま、財布を開いて固まった。
十円足りなかったんです。
僕は「大丈夫です」と言おうとしたんですが、言っていいのかどうかわからなくて、少し間が空いた。
その間に、男の人はおにぎりを棚に戻しに行った。
缶コーヒーだけ買って帰っていきました。
次の晩、男の人はいつもより少し早く来て、缶コーヒーとおにぎりを二個買った。
会計のとき、「昨日はどうも」と言われました。
僕は何もしていないのに。
そのあと半年くらい、その人はおにぎりを二個買い続けていました。
十円の件から、一個増えた。
理由は聞けませんでした。
コンビニのレジ横には、だいたい募金箱が置いてあります。
深夜のシフトで、おつりの小銭をそのまま募金箱に入れていく人を何人も見ました。
一円玉と五円玉が多い。
たまに十円玉。
いちばん多く入れていたのは、毎晩来る、作業着のおじいさんでした。
おつりは全部入れる。
「財布が重くなるから」と言っていました。
日本には、飲み物以外も含めて四百万台近い自販機があるそうです。
夜道を歩いていると、それがよくわかります。
街灯の少ない住宅街でも、角を曲がるたびに、どこかで自販機が光っている。
真っ暗な田んぼの真ん中の一本道に、ぽつんと一台だけ立っていることもある。
誰が買いに来るのかわからない場所で、一晩じゅう光っている。
学生のころ、友達と夜中にドライブをして、山道で道に迷ったことがあります。
スマホの電波も入らない。
三十分くらいさまよって、カーブの先に自販機の明かりが見えたときの安心感は、いまでも覚えています。
人の気配がまったくない場所で、自販機だけが「あったか〜い」と言っている。
光に虫が集まっていて、僕らもその虫と同じようなものでした。
車を停めて、全員で缶コーヒーを買った。
自販機の横に、小さく住所の書かれたステッカーが貼ってあった。
それを見て、やっと自分たちがどこにいるのかがわかりました。
あの夜、僕らを助けてくれたのは地図アプリじゃなくて、自販機の側面のステッカーです。
自販機の「あったか〜い」と「つめた〜い」の、あの「〜」が好きです。
「温かい」「冷たい」でも意味は通じるのに、わざわざ伸ばしている。
伸ばすだけで、急に人が話しかけてきているみたいになる。
秋になると、自販機の下の段から順番に、表示が青から赤に変わっていきます。
補充の人が、季節に合わせて入れ替えているんですね。
毎年、近所の自販機で最初の「あったか〜い」を見つけた日を、僕は勝手に秋の始まりにしています。
カレンダーの秋分より、こっちのほうが体感に合う。
今年は、九月の終わりでした。
まだ半袖で歩いていたので、ちょっと早いなと思いました。
逆に春は、最後の「あったか〜い」がいつ消えたのかに気づけない。
始まりは目に入るのに、終わりはいつも見落とす。
自販機の当たりの話もさせてください。
ボタンを押すと、小さな液晶で数字がくるくる回るタイプの自販機があります。
四桁がそろったら、もう一本。
何百回も見てきましたが、そろったのを見たことは一度しかありません。
その一度は、僕じゃなくて高校の友達でした。
部活帰りに、彼がスポーツドリンクを買ったら、数字が7777で止まった。
自販機から音楽が鳴って、全部のボタンが光った。
友達は固まりました。
「どれにしよう」と言ったまま、十秒くらいボタンの前で手を浮かせていた。
制限時間があるんです。
迷っているうちに、光が消えた。
もう一本はもらえませんでした。
友達は、自販機に向かって「ちょっと待って」と言っていました。
自販機は待ってくれなかった。
帰り道、友達は「次そろったら、もう決めてある」と言っていて、何にするのか聞いたら、「同じやつ」と言いました。
それなら迷わなくていい。
最近、財布をほとんど持ち歩かなくなりました。
コンビニも電車もスマホで払える。
自販機にもカードやスマホをかざすところがついていて、小銭を入れる穴を最後に使ったのがいつだったか、思い出せない。
財布の小銭入れを開けたら、十円玉が三枚と一円玉が一枚、何か月も入ったままになっていました。
先週、出張先の駅で、古い自販機の前に立ったことがあります。
スマホをかざすところがない、硬貨と千円札しか使えないタイプ。
喉が渇いていて、ポケットを探ったら、百円玉が一枚と十円玉が一枚。
飲みたかったお茶は百三十円でした。
二十円足りない。
千円札を入れようとしたら、千円札の投入口に「使用中止」の紙が貼ってある。
結局、隣のコンビニまで歩いてお茶を買いました。
コンビニは目の前にあったので、困ったのは十秒くらいです。
でも、自販機の前で手のひらの硬貨を数えていたあの十秒、子どものころの自分がすぐそばにいた気がしました。
しゃがんで、自販機の下をのぞきたくなった。
のぞきませんでしたけど。
スーパーのレジで、合計金額が千十円になることがあります。
千円札を出して、小銭入れから十円を探す。
後ろに人が並んでいると、指先が急に不器用になるんですよね。
一円玉ばかり出てきて、十円玉が見つからない。
探しているうちに、レジの人が「千円お預かりで、おつりは……」と言いかける。
慌てて「あ、十円あります」と出して、レジの人が打ち直す。
あのやりとりの、妙に気まずい三秒。
一度、本当に十円が見つからなかったことがあります。
レジの人が千円札を受け取りかけたところで、後ろに並んでいたおばあさんが、すっと十円玉を一枚、カウンターに置いた。
「いいのいいの」と言って、手を振る。
返そうとしたら、おばあさんはもう自分のかごの中身をカウンターに出しはじめていた。
お礼を言って店を出て、駐車場で振り返ったら、おばあさんが自転車のかごに荷物を積んでいるところでした。
もう一回お礼を言おうか迷っているうちに、おばあさんは自転車をこいで行ってしまった。
十円の借りが、いまも一枚残っています。
駄菓子屋のおばちゃんとは逆で、こっちは返す相手がわからない。
足りないものが十円だけ、という状況は、なぜか記憶に残ります。
一万円足りないなら、あきらめがつく。
千円足りないなら、ATMに行く。
十円だけ足りないとき、人はちょっと情けない顔になる。
あと少しなのに。
ほとんど持っているのに。
その「あと少し」の距離が、いちばん遠く感じる。
「鳩男 ― ある一流の日常 ―」の第2話、「十円の夜」。
ドキュメンタリー番組風のナレーションが付いた全4話のシリーズで、1話30秒の縦動画です。
映像はCapCutのAI生成で作りました。
コンビニの帰り道、自販機の前に立った鳩男が、十円足りないことに気づく。
話としてはそれだけです。
ナレーションはそれでも、一流の男の一夜として、重々しく語ります。
伝書鳩は夜は飛ばないそうなので、鳩男もたぶん、この夜は急いで帰らない。
深夜のコンビニの、缶コーヒーとおにぎりの人のことを思い出しながら作りました。
あの人がおにぎりを棚に戻しに行った後ろ姿は、たぶん、一流の背中でした。
▼こんな人に
子どものころ自販機の下をのぞいていた人/ギザ十を見つけるとちょっと嬉しい人/公衆電話の「ピー」という音を覚えている人/駄菓子屋で「今度でいいよ」と言われたことがある人/伝書鳩や鳩レースの話が好きな人/深夜のコンビニの空気が好きな人/レジで十円を探して焦ったことがある人/キャッシュレスになって小銭入れが化石になっている人/あと少しが足りなかった夜を覚えている人/AI動画・生成AIの映像に興味がある人。
Your rival is the last person you expect to miss.
Harry vs Malfoid
He stopped letting her get in his head.
She realized she might already be in his.
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Expecto Patronum! ⚡️
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なぜか筆を2本参照してるのが謎(笑)
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