先の大戦末期に米国がソ連へ艦艇と訓練を提供した極秘計画「プロジェクト・フラ」について、その事実関係と日本にとっての意味を、国民の皆さまと共有します。終戦直前・直後の北方で何が起き、なぜ今日まで課題が続くのかを理解するうえで不可欠なテーマです。
プロジェクト・フラは、1945年4月に訓練が始まり、9月2日の降伏文書調印の日にも引き渡しが行われ、最終の引き渡しは9月4日まで続きました。実施場所はアラスカのコールドベイで、ソ連海軍要員に対して掃海・上陸・護衛などの実務訓練が集中的に行われ、艦艇は最終的に計149隻が引き渡されています。こうして整えられた戦力は、終戦前後の南樺太・千島方面の作戦に投入されました。占守島の戦い(8月18日〜23日)、千島侵攻(8月18日〜9月2日)などがその代表例です。
この計画の全体像は、米海軍の公式史機関が1997年に公刊したモノグラフ「Project HULA: Secret Soviet-American Cooperation in the War Against Japan」(Richard A. Russell)によって一般に示され、その後の研究・報道の基礎資料となりました。英語の背景解説としては、米海軍協会誌 USNI「Proceedings」に2005年掲載の記事「A Mission of Higher Classification」も知られています。
日本にとっての意味は、第一に、終戦前後の北方で何が実際に起こったのかを、日付と具体的行動に即して説明できる点にあります。第二に、北方領土問題の前史として、どのような戦力が、どのルートで整えられ、どの作戦に投入されたのかを事実に基づいて位置づけ直す手掛かりになることです。第三に、当時の国際関係――米ソの協力と競合という現実――を踏まえ、現代の対露外交や日米関係を論じる際の共通認識を社会に形成する材料となることです。
日本国内では、2017年12月30日の北海道新聞・朝刊一面「ソ連四島占領 米が援助 艦船貸与、兵訓練…極秘合同作戦」が米国からの艦艇貸与や訓練の実態を大きく報じ、一般向けの再紹介が進みました。続いて、朝日新聞デジタル「論座」には高橋浩祐「実はアメリカが軍事支援したソ連の北方4島占領」(2018年12月16日)が掲載され、英語の一次資料と国内の研究・地域証言を接続する形で理解が広がりました。地域の証言・資料を掘り起こした北海道根室振興局の調査(「北方領土遺産」関連事業)も、国内での事実認識の前進に寄与しています。
教育現場では、これまで「ソ連の対日参戦」や「北方領土問題」の文脈で事象自体は扱われてきたものの、作戦名としての「プロジェクト・フラ」を明示する記述は一般的とは言えません。歴史の連続性と国際政治の力学を具体的に学ぶためにも、教科書や授業での扱いを拡充すべきと考えます。また、終戦前後の占守島・千島の動きとの関連づけなど、学習者が自ら検証できる形で提示することが望まれます。学習指導要領の趣旨に沿いながらも、地域史・外交史・安全保障の横断的テーマとして積極的に取り上げられることを期待します。