中国語翻訳とジェンダー雑感
中国語は昔、三人称代名詞を英語の he / she のように性別を書き分けなかった。
近代化で、西洋語の翻訳を通して he / she を訳し分ける必要に迫られ、「他」から「她」という漢字が生まれた。面白いのは、he と she は耳で聞いても違うのに、中国語の「他」と「她」はどちらも tā で、音では全く区別できない。
台湾で使われる「妳=you」も同じく、発音は「你」と同じ nǐになる。話しているときには存在しない男女差が、文字にした瞬間に現れる。
そして今、LGBTQ+やノンバイナリーをめぐる意識の変化のなかで、「書き手が相手のジェンダーを決めるのか」という倫理上、「妳」や「她」をあえて使わず、「你」「他」など無標の表記を選ぶことにこだわる台湾の友人が増えつつある。
無標だった中国語に、翻訳によって近代的なジェンダー区分が持ち込まれ、同時代になって再び無標へと向かう、という。
かつては「区別がなかった」。いまは「区別できるけれど、あえて区別しない」。同じ「他」「你」に見えても、その回帰の無標性が意味するものはまったく違うと感じる近頃。
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