Hyposkilli=臨床技能欠乏症
「Hyposkillia」とは、十分な病歴を取れない→ 信頼できる身体診察ができない→ 得られた情報を批判的に考えられない→ 妥当な診療計画を立てられない→ 臨床推論が弱い→ 患者とのコミュニケーションも不十分という、医師の技能不足。
Herbert L. Fred Hyposkillia: Deficiency of Clinical Skills Tex Heart Inst J. 2005;32(3):255–257.
重要ポイント
1.「検査をたくさんする」ことと「診断能力が高い」ことは違う
Hyposkilliaの医師も、検査をオーダーする能力には長けている。しかし、いつ検査すべきか、結果をどう解釈するかが分からないことがある。
患者を治療するのではなく、検査値を治療する。検査を多用するほど、patient-oriented medicineからlaboratory-oriented medicineへ傾きやすい、と指摘しています。
「異常値を見つけたら治療」ではなく、「この異常値は、この患者の何を意味しているのか?」と考えることが重要。
2.High-tech medicine と High-touch medicine
High-touch medicine:病歴 → 身体診察 → 臨床推論 → 必要なら検査。丁寧な病歴、適切な身体診察、そこから得た情報の批判的評価を行い、その後に必要な検査を選ぶ医療
High-tech medicine:主訴 → CT/MRIなど高度検査 → 診断となり、病歴・身体診察・臨床推論がバイパスされる。病歴・身体診察を省略すると医師患者関係そのものが弱くなる。
3.検査は「診断を作る」のではなく「臨床仮説を検証する」
患者を診る→ 仮説を作る→ 検査前確率を考える→ 検査で確かめるという順番が大切。
*AI時代なら、病歴・身体診察 → 臨床推論 → AIを含む検査・technologyと置き換えることができる。
4.身体診察の価値は「検査をしないこと」ではない
“brains and hearts”を使って患者を診る。
心臓弁膜症:まず聴診器、いきなり心エコーではない
頭蓋内圧亢進:まず眼底鏡、いきなりMRIではない
チアノーゼ:まず自分の眼、いきなり血液ガスではない
脾腫:まず自分の手、いきなりCTではない
*Technologyを使わない医師になるのではなく、Technologyに使われない医師になる。
5.Hyposkilliaの最大の原因は「研修医」ではなく「教育者」
講義室やカンファレンスでの教育が増え、患者のベッドサイドで指導医と研修医が一緒に診察する時間が減ったことが問題。
結果として、研修医が1~2年上の研修医・フェローから教わる “the blind leading the blind” (盲人が盲人を導く)が起こる。
したがってHyposkilliaを防ぐには、知識を講義するだけではなく、「指導医が患者をどう見るか」をベッドサイドで見せる必要がある。
Take-home message
① Patient before Data 検査値を見る前に、患者を見る。
② Hypothesis before Test 検査をしてから考えるのではなく、まず病歴・身体診察から仮説を作る。
③ Technology should verify thinking, not replace thinking テクノロジーは臨床推論を置き換えるものではなく、臨床仮説を検証するために使う。
AI時代のHyposkillia
*「検査をオーダーできる医師」から「患者を診て、考え、必要な検査を選べる医師」へ
*AIに診断してもらう医師ではなく、AIの答えを患者の前で吟味できる医師になる。