#フランス語原書紹介 C'était ça ou mourir(Thélyson Orélien、2026、ドラマ、P272)ポルトープランスの自分の街が炎に包まれたあと、ジョナスはハイチを発つにあたって、ほとんど何も持ち出さなかった。一枚の卒業証書、一冊の詩のノート、母の写真。ビニール袋ひとつに収まる、人生のすべて。まずドミニカ共和国へ、それからブラジル、メキシコへと逃れながら、歴史教師は国境を越えていく。あるときは熱気のこもったバスに揺られ、あるときはジャングルの奥深くと格闘しながら。行く先々で、新しい顔が現れ、人が倒れ、連帯が結ばれてはまた壊れていく。カナダにいるわずかな家族のもとへたどり着きたい――その願いを胸に、ジョナスはアメリカ合衆国の門前に立つ。ICE(移民税関捜査局)の職員たちと、移民狩りのためなら手段を選ばない行政機関を前に、たったひとりで。
きわめて現代的でありながら普遍的なこの小説は、移住を現在形で語る。概念としてではなく、身体で味わう経験として。歩くこと。飢えること。傷つくこと。そして諦めないために、恐怖を前にして笑うこと。テリソン・オレリアンが繰り広げるのは、ユーモアと詩に貫かれた、あふれるような文章だ。「文法もなく、辞書もなく、ただ骨と皮膚だけで」身につけていく、亡命の言語である。